No.13117 術前化学療法について

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2024.08.31 K.S 0 Comments

48歳、女性。左胸の内側の痛みで受診。画像+細胞診後の計画では、ER陽性、HER2 3+、Ki67 30%、しこりも大きいため(CT6cm、MRI4.5cm)、術前化学療法の後、手術という計画でしたが、抗がん剤の不安が強く、始められずにいます。術前の化学療法(TCbHP)をしても、全摘、リンパ郭清もすると言われたため、手術先行の方向で考えていますが、わきの郭清もなるべく小さい範囲を希望しており、しこりの大きさや抗がん剤の効果の確認のためにも、術前の抗がん剤をした方がいいのか、迷いもあります。ご意見をお伺いしたく、よろしくお願いいたします。

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2024.09.01 清水 0 コメント

一言で答えれば、抗がん剤を術前に投与しても術後に投与しても、再発率、副作用に差はありません。術前と術後の抗がん剤投与の違いは、術前に抗がん剤を投与すると、その薬剤の効果が見えるということです。それでは実も蓋もないので、もう少し詳しくお話しします。術後に抗がん剤を投与する場合は、原発巣を切除してしまっているので、使った薬が貴女のがんに効いているかどうか分かりません。過去の臨床試験で最も効果の大きかった治療を選択して、それが自分のがんにも効果があることをひたすら祈るだけです。一方、術前の抗がん剤治療では、原発巣がありますから、その薬剤が貴女のがんに対して有効であれば原発巣は小さくなります。原発巣が小さくなるということは、体の中に散らばっているであろうがん細胞に対しても効果がある、つまり転移の芽をつんでいるということになります。また効果が実感できれば、辛い副作用に耐えるモチベーションにもなります。しかし裏を返せば、どんなに成績の良い治療でも、貴女のがんに対して効果がなければ、原発巣は大きくなり、散らばっているであろう細胞も死んでいません。つまり将来転移が出現する可能性が高いということがわかってしまいます。最初にお話ししたように、術前でも術後でも治療効果は同じですから、あとはあなたの考え方の問題です。貴女の性格が何事にも白黒つけないと気が済まないような性格(使った抗がん剤が自分のがんに効いているかどうかはっきり知りたい)というのであれば術前治療をお勧めしますし、悪い話は聞きたくないから、白黒つけるより曖昧なままにしておく(現時点で最良の治療をしているのだからそれを信じる)方が気持ちが安らぐというのであれば、術後治療をお勧めします。付け足すと、術前治療で効果がなかった場合は、そこでその治療を中止して手術に切り替えますが、術後の場合は効果が見えませんから、決まった量を全て投与することになります。また術前治療で効果がなかった場合は、術後に別の治療を加えることを考えます(その効果は見えませんが)。化学療法の目的は、全身に散らばっているであろうがん細胞を殺して転移を防ぐことなので、決して今あるがんを小さくするために行うのではありません。術前治療が有効だった場合のおまけの効果として、腫瘍が小さくなったり、リンパ節転移が触れなくなったりするので、結果として手術を小さくする(全摘→部分切除、腋窩リンパ節郭清→センチネルリンパ節生検)可能性がでてきます。術前治療を行って効果があった場合に、手術を縮小するのか、縮小せず予定通りの手術を行うのかを明らかにした臨床試験はありませんから、現時点では主治医の考え方によって様々です。大きく切除する考えの先生は、がんが小さくなったと言ってもがん細胞は残っている可能性は否定できないのだから、根治性を高めるために乳房全摘、腋窩郭清を勧めます。私は手術縮小派なのですが、その根拠は、治療の目的は転移を減らして、生存率を高めることです。そのためには薬物治療が重要で、手術を大きくすることでは生存率が改善しないことはわかっています。ですから、術前治療が効いた場合は、手術は縮小して良いのではないかと考えます。しかし手術を縮小すると、乳房内や腋窩にがんが再発するリスクは高くなります。しかし乳房や腋窩に再発したがんは、後で切除することも可能です。ですから、乳房や腋窩にがんが再発することを怖い、もしくは嫌だと考えるならば、全摘郭清をお勧めしますし、次にまたがんが出てくるかもしれないが、そのリスクは覚悟して、せっかく強い抗がん剤の副作用に耐えて抗がん剤治療を全うしたのだから、そのご褒美として体を傷つけるのは最小限にしたいというのであれば縮小手術をお勧めしています。(文責 清水)

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