標題の件につきまして、ご回答いただき有難うございます。またお礼が遅くなりましたこと、大変申し訳ございません。ご回答いただいた内容は私の心の支えとなっております。(ちなみに浸潤径は病理結果に記されておらず、私も気になりましたので主治医に確認したのですが、PT1aの情報で十分だと言わんばかりに不思議がられて終わりました。) 他の方に比べてレポートの情報量が少ないなと感じたのですが、そうでもないでしょうか? 現況ですが、ホルモン治療は「必要」「不要」の両方あるご意見に、今も一人で悩み続けています。結局決断ができず、本日までホルモン治療を続けてきました。現在、主治医も異動し、信頼のおける医師はおりません。病院自体にも不信感があり、転院を希望していますが、適当な病院が見つかりません。先生と同じ治療方針の病院で経過観察をお願いすることが私の望みです。大変恐れ入りますが、本日は以下のご質問でメールさせていただきました。
1)ホルモン治療が「必要」と判断した専門医は、理由を「断端陽性」を強調します。私の状態でホルモン治療をしないことはありえないと言った医師もいます。「断端陽性」は、私にはどうすることもできず、心が苦しいのですが、そんなに「断端陽性」は問題なのでしょうか。再発する方は「断端陽性」の方が主ですか? (主治医に「断端陽性」の状態を確認すると、「垂直断端」だから、そこまで気にする必要はないとのことでした。) 私の状態でホルモン治療を選択しないことは、決して「無謀」ではないですよね? 別の専門医は、PT1aはホルモン治療不要、まして私はほぼDCISなので、そもそも「不要」との見解でした。先生のご担当の患者さんは、PT1aはホルモン治療をしていない方が多いですか? 私の状態でホルモン治療を選択しないことは、一般的ではないのでしょうか?
2)局所再発予防は「放射線治療」、遠隔転移予防「ホルモン治療」という認識でおりますが、間違いないでしょうか。「ホルモン治療」は局所再発予防の効果はないのですか? DCISの場合は、基本ホルモン治療はなしということは、局所再発予防の効果はなし?というか、局所対策は放射線治療のみで十分と考えられているからなのか?と混乱しています。 放射線治療は、断端陽性のためブースト追加しました。=「局所再発予防」 遠隔転移予防のための「ホルモン治療」ならば再発率も低いとされているので、子宮への副作用を一番恐れているため、「ホルモン治療はしない」もありか?と、様々な考えが頭をよぎります。
長々と脈絡のない文面、ご容赦くださいませ。誰にも相談できず、このような場を設けてくださり、救われております。どうもありがとうございます。よろしくお願い致します。
1)pT1a(浸潤径が5mm以下)の場合は内分泌療法を行わない方が多いです。それは過去のDATAから、pT1aの乳がんが転移再発する例が極めて少ないからです。しかし、対側乳がんの予防効果、温存乳房内の乳房内再発のリスクを下げる目的で内服する方もいます。
2)基本はその通りです。
3)ここで、皆さんが混乱するところを整理しましょう。乳がんの治療の目的は何でしょう? それは第一に乳がんで死なないことです。しかし、死なないと言い切ることはできませんから、正確には生存の確率を高める(裏を返すと乳がんで死亡する確率を下げる)ことです。貴女の場合はpT1aN0M0、ルミナルAですから、手術だけで死亡のリスクは1%以下と考えられます。内分泌療法を行えば、その確率は0.7%以下になります。0.3%が大きいと考えれば内分泌療法を行うという選択肢もありますが、一般的にはその差は極めて小さいので、薬の副作用などを考慮すると内服しないという判断が妥当と考えます。乳がん以外のがんでは、ここで話は終わりです。しかし、乳がんが他のがんと違うのは、第二の治療目標があるのです。それは次の乳がんの発生の確率を下げるということです。ちょっと話はそれますが、私が医師になる前の時代(約60年前)は、乳がんの治療は乳房切除だけで、化学療法も内分泌療法もありませんでした。対側の乳がんは、できたらまた治療すればよいと考えていました。50年前にER(+)乳がんに対するTamoxifenによる内分泌療法が確立しました。そして一番大きな変化は、30年くらい前から始まった乳房温存療法でした。それは、当時はまだ珍しかった臨床試験という方法で、乳房切除術と乳房温存手術の長期生存期間を比較した結果、乳がんよる死亡の確率はどちらの手術でも同じだと分かったからです。ここで問題になったのは、それでは何が違うのか? それは乳房温存手術では乳房内再発(乳房温存した乳房にもう一度乳がんができる)が約30%に起こることでした。それに対して、温存乳房に放射線治療を加えることで、その確率を1/6に下げられるとわかり、手術法は乳房切除術(腫瘤径が大きい場合、何らかの事情で温存手術を望まない場合)か、乳房温存手術+放射線治療と決まりました。ただし、乳房温存の条件に、断端陰性が条件でした。最初の臨床試験で断端陰性は“ガンが露出していない”でしたが、この断端の扱いも国や施設によってまちまちで、対応もまちまちになのです。そして乳房内再発を考慮するということは、対側乳癌の発生も考慮するようになってきたのです。話を戻すと、第二の治療目標は、次の乳がんの発生の確率を下げるです。貴女の場合、乳房温存手術+放射線は標準的な治療ですが、断端陽性が困った問題です。ここで確認ですが、この問題は第二の治療目標の問題点で、第一の治療目標(死亡確率を下げる)には影響を与えません。つまり、内分泌療法は原則として不要は、変わらないということです。それでは断端の問題はどうしましょうか? 断端陽性の対処方法は二つで、再手術して温存乳房を切除し乳房内再発を防ぐか、再手術せずに経過を見て定期的なMMG,US検査によって乳房内再発を小さいうちに見つけて治療するという選択肢をとるかです。ここでもう一つ問題は、断端陽性が垂直断端ということです。乳がんを部分的に切除した場合、水平方向(側方)は大きく取ることも小さく取ることも可能で、一般的には、この方向の断端陽性が問題となります。しかし、垂直断端とは、上方は皮膚、下方は筋肉ですから、たとえ断端陽性でも、それ以上の追加切除はできません。DCISの場合の垂直断端陽性というのは、多くの場合、標本作成上の現象で、通常は追加切除はしません。ですから、貴女の場合は、追加切除も不要ですから、毎年定期的なMMG,US検査をすることで経過を見ていってよいと思います。最後の問題です。内分泌療法は乳房内再発、対側乳がんの発生の確率を下げられるか? これはYesです。つまり、第一の治療目的だけで考えれば内分泌療法は不要でしたが、第二の治療目的に対しては効果が期待できるのです(この辺が話をわかりにくくしているところです)。ですから、DCISの方でも、子宮体癌のリスクと乳がんの予防効果を天秤にかけて、次の乳がん予防(第二の治療目的)のために内分泌療法を行う方もいます(例えば子宮の病気で子宮全摘をしている方など)。(文責 清水)