No.12524 手術方法と今後の治療

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2020.10.06 M 0 Comments

今後の手術方法などについて教えてください。

まず4年前に右側乳癌ステージ1で、術前抗がん剤、部分切除温存術、ハーセプチン、放射線をしました。術前抗がん剤で腫瘍は消えてくれ、経過観察で4年間順調にきましたが、今年の5月頃に反対の胸に自分でシコリを見つけ、検査の結果、新しい乳癌が見つかり、今度はトリプルネガティブ ステージ1と診断されました。シコリは、1.5センチでしたが、薬の効きを見るために術前抗がん剤を始め、前半の抗がん剤が終了した時点でシコリはかなり小さくなったようです。今は後半の抗がん剤ドセタキセルの2回目が終了し、あと残りの2回終了後に手術予定です。抗がん剤治療を進めていくなかで、遺伝子検査を希望し、陽性と診断されてしまいました。

遺伝子検査陽性の場合、全摘は免れないという事で、今後の予定は、左側全摘で、4年前に温存している胸は経過を見ていくと、乳腺外科の先生に言われました。温存出来ると思っていたのが、全摘になってしまい、小さい子供が居るので、ショックを少しでも与えたくないと思い、全摘でも同時再建を希望したのですが、術前抗がん剤をしている人は、同時再建は出来ないと言われてしまいました。

先生には、「後は看護師に聞いて」と、診察も終了されてしまい、いつも質問や相談は出来ません。看護師さんの話では、抗がん剤をやっていると感染症の心配があるから同時再建出来ないという事でした。術前抗がん剤から治療してしまった場合、どこの病院でも全摘と同時再建はして頂けないのでしょうか。教えて下さい。千葉県に住んでいますが、どこか希望を持てる病院があれば、どうかよろしくお願いします。4年前に温存している胸や、卵巣も心配です。

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2020.10.06 清水 0 コメント

とても複雑な問題のご質問なので、初めに質問内容を以下の5項目に整理をして回答します。

  1. 一般的な(BRCAの検査をしていない場合)術前化療後の術式
  2. 一般的な(BRCAの検査をしていない場合)術前化療後の再建手術
  3. BRCA検査で変異陽性だった時の乳がん術式の選択
  4. BRCA検査で変異陽性だった時のリスク低減乳房切除術(RRM) とリスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)について
  5. 千葉県内にある日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(J O H B C)認定施設
  1. 一般的な(BRCAの検査をしていない場合)術前化療(NAC)後の術式:乳がん手術の大原則は、乳房全摘しても乳房温存手術をしても生存率は同じだということです。問題点は乳房温存した時に整容性が保たれるか(大きな乳がんを無理に乳房温存すると変形が強くなる)、乳房内再発のリスクを受容できるか(乳房を残せば残った乳房にまた乳がんができるリスクがある)の二点です。この原則に基づいて、術前化療を行なった場合の術式を考えると、術前化療を行なって腫瘍が縮小した場合、術前化療前は乳房全摘が必要とされた場合でも術前化療後は切除しなければいけない乳腺が小さくなりますから整容性の面では乳房温存手術が可能になります。しかし、乳房内再発に関しては、術前化療を行わないで乳房温存した場合に比べて、術前化療で小さくなった乳がんを乳房温存した場合には乳房内再発のリスクは高くなることがわかっています。この2点を天秤にかけて、自分は整容性を重視して乳房温存手術を選ぶのか、乳房内再発のリスクを嫌って乳房全摘を選ぶのか、どちらを選ぶのかをよく考えて決めてください。
  2. 一般的な(BRCAの検査をしていない場合)術前化療後の再建手術:術前化療が終了していれば白血球などは正常に戻りますから、感染症のリスクが高くなるから同時再建(インプラントも用いた再建、自家組織を用いた再建)ができないということはありません。ただし、自家組織を用いた再建は手術時間が長くなるので多くの病院では二期的に行なっています。
  3. BRCA検査で変異陽性だった時の乳がん術式の選択:遺伝子検査というのはBRCA1/2(以下BRCAと略します)の遺伝子検査のことだと思いますが、BRCAの遺伝子変異がある場合は、乳がん卵巣がんになるリスクが高くなることが知られています。乳がんについては、原発乳がん、片側を全摘もしくは温存手術をした場合の対側乳がん、乳房温存手術した場合の温存乳房にできる乳がんの全てのリスクが高くなります。そのため、BRCA遺伝子変異陽性乳がんの術式としては、乳房温存すると乳房内再発のリスクがかなり高くなるので、一般的には乳房全摘が勧められます。しかし、乳がん手術の原則通り、乳房温存したからといって生存率が下がるわけではありませんから、乳房内再発のリスクが高いことを受容したうえで、整容性を重視して乳房温存手術を選択することも可能です。
  4. BRCA検査で変異陽性だった時のリスク低減乳房切除術(RRM) とリスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)について:3)でお話ししたように、BRCA遺伝子変異がある場合は、原発乳がん、対側乳がん、乳房内再発のリスクが高くなることがわかっています。となると、今回の乳がんの術式として、乳房内再発のリスクを嫌って乳房全摘を選択したとしても、対側乳がんの高いリスク(貴女の場合も右乳がんの後に左乳がんになりましたよね)が残ります。そこで、対側乳がんのリスクを下げるためにリスク低減乳房切除術(RRM)という手術があります。いわゆる予防手術ですが、予防と言わないのは全摘しても乳がんができるリスクがゼロにはならないので、リスク低減手術と言います。この手術が今年4月に保険適応になりました。ただし、どこの病院でもできるというのではなく、かなり厳しい条件があり、あとでお話しするJOHOBCに認定された基幹病院もしくはそれと同等の施設基準の病院である必要があります。BRCA変異陽性乳がんについては、このように両側の乳房切除で乳がんのリスクを下げるという方法がありますが、乳房切除は嫌だという場合には、マンモグラフィーとMRIを併用した乳がん検診を定期的に行うことで新しい乳がんを早く見つけるという方法で対応することも可能です。一方、貴女が心配しているように、まだ卵巣がんのリスクが残っています。世の中に乳がん検診、子宮がん検診という言葉はありますが、卵巣がん検診という言葉は聞いたことがないのではないでしょうか。卵巣がんというのは早期発見が難しいがんの一つで、適切な検診方法がないのです。したがって、BRCA変異陽性の方の卵巣がんのリスクを下げるためには、リスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)という手術が勧められています。この手術も今年4月に保険適応になりました。しかし、もし閉経前であれば、卵巣を切除するということは子供が産めなくなるということですし、早期閉経という問題があります。そのために手術を行うタイミングが難しいのです。もし閉経後であれば、躊躇せずRRSOを行うことをお勧めします。
  5. 千葉県内にある日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(J O H B C)認定施設:JOHOBCのホームページで、2020年4月現在の情報として調べてみると、残念なことに千葉県内には認定施設がありません。ただし、JOHBOCの認定は受けていないが、対応可能であるという病院もあるかもしれません。それについて個々の病院にあたって、リスク低減乳房切除術、リスク低減卵巣卵管手術が可能な病院かどうか聞いていただくしかありません。可能性のある病院としては、千葉大学附属病院、千葉県がんセンター、亀田病院などが考えられます。

長くなりましたが、貴女にお勧めできる最良の選択肢は、近隣でJOHBOC認定基幹病院になっている病院(JOHBOCのホームページで見てください)、もしくはそれと同等の施設基準を有している病院を受診して、RRM,RRSOまで視野に入れた話を聞いて治療方針を考えるのが良いと思います。しかし、現在の化学療法が終了しないとなかなか動けませんよね。治療中にパートナーもしくは家族の方に手伝ってもらって病院探しをして、治療終了後に受診する算段をしてみては如何でしょうか。(文責 清水)

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