どうぞよろしくお願いいたします。89歳の母の手術後の治療についてです。2月下旬に右胸にしこりを見つけ、4月下旬に部分切除しました。先日検査結果の報告と今後の方針についてのお話がありました。今後放射線照射を受けるか、無治療にするかを、早めに決めなくてはなりません。助言をお願いいたします。
アポクリン癌 2.0×0.8㎝ 浸潤径 0.4×0.3
ホルモン受容体 無し
HER2タンパクの発現 陰性 1+
組織学的悪性度(核異形度)3
切除断端 マイナス
脈管侵襲 リンパ管 マイナス 血管 マイナス
増殖マーカー Ki-67 48%
Stage 切除した部分だけでみればⅠ(リンパを見ていないのでわからないが、もし問題があればⅡAくらい)
ここ数年衰えは目に見えてきておりますが、年齢の割には元気で、健康な方と思います。手術前の検査で、全身麻酔の手術が可能であるとのことでしたが、リンパに転移している可能性はそれほど高いわけではないという印象と、やはり高齢ですから、全身麻酔による万一の危険を避けて、部分切除を選びました。というわけで、リンパは調べておりません。手術前日から手術後4日間、血圧が上200前後で下がらず心配でしたが、その後、特に問題もなく、通常どおり過ごしています。今後の治療について、ホルモンとハーセプチンは効かない。年齢と体力を考慮して抗がん剤は使わない。ということで説明を受け、理解しています。放射線照射について、予防的にはした方がよいが、毎日通うことと、いくつかの副作用について困難を感じるなら、無理にしなくてもよいといった印象です。放射線の技術が上がっているとはいえ、何の危険もないわけではないし、放射線をかけなかったところに転移する可能性もあるわけですし、本人の自力の可能性に賭けるのもありかな…と思う一方、再発するとしても5年くらい先だろうというお話をうかがってはいますが、わずかな苦痛と危険をさけて、もしかしたら10年元気でいられる可能性を損なうのもどうかと思います。比較的おとなしいタイプのがんであることや、高齢であることを鑑みてもなお、放射線治療を選ぶ有用性は高いでしょうか。検査結果は上記のとおりですが、放射線の治療を受けることをお勧めになりますか? お考えを聞かせていただければ幸いです。最後になりますが、このような場を提供してくださることに感謝いたします。
術後の放射線治療は、あくまでも温存手術を補う局所療法であり、乳房温存療法のガイドラインにもあるように、術後の放射線治療を回避するべき症例(過去の同じ部位の放射線治療歴・膠原病等の基礎疾患・認知症等で放射線治療が危険である場合・最近では乳癌遺伝子保有者等)では、術式は乳房切除(全摘)にするべきです。例外として「切除断端を十分陰性で取ることが出来るなら、臨床試験等の場合は除く」と有りますが、通常放射線治療はするべきです。ただしその目的は、局所再発を防止(本来部分切除で切除断端陰性の場合、放射線治療無しで7~8%の局所再発率を、放射線治療により1~2%まで減少させて、数年後に乳房切除という再手術を予防)して、局所のコントロールを乳房切除並みに引き上げることにあり、遠隔転移を予防することにはなりません。お母様の場合、本来は乳房切除が適応と考えられる乳癌に対し、やや甘い適応で温存手術になったと考えられますが、今後発症する可能性のある局所再発とリンパ節転移に目をつぶれば、『放射線治療無しという選択肢』は有りだと考えます。一つ付け加えさせて頂ければ、記載されたデータから読み取ると、StageⅡAの乳癌の10年生存率は80%ですが、triple negative typeでKi67=48%と結構高いので、遠隔臓器再発率はその裏返しである20%よりずっと高くなり、「比較的おとなしいタイプの乳癌」というのには当たらず、むしろ「小さく見つかったけれど結構お転婆な乳癌」という印象を受けます。とは言え、「89歳なので抗がん剤は使わない」という方針は、それはそれで尊重して良いと考えます。(文責 久保内)